やる人が他にいないから、やる。

 夕暮れ時、待ちわびたお客さんが来てくれた。携帯もパソコンも持たぬ彼は、歴史に名を残す人。特異な彼の仕事は時代に埋もれた名曲のほぼたった一回の再現。見つけたのだ。彼自身がその仕事を。
 その仕事をするには、まれに見る好環境にある彼。そして、後の世にも自分以外に、この好環境に生れ落ちる人はそうそういないだろうと言う。つまり、だから彼はその仕事に打ち込む。逃げ出したくなったことはないですか?と訊ねるときっぱりないと返された。
 しかし、自分がその道に入ろうとする十代のころ、猛烈に自問自答したという。その、土台ともいうべき自分自身への問いかけが今をまっすぐに支えているとのこと。
 時はいつか?と問われれば、今しかない。
果たして、自分は自分の道をそこまで問い詰めたことはあっただろうか?
日々に流されてはいないか?

瞬間瞬間、自分の直感を信じて生きてきた。
やはり、そんな生き方しか僕にはできないのか?

金沢の雨に思いをめぐらせて。