疲れるのまき。

 僕は何回、このビルがどうなるか、いつ壊されるのか、訊ねられただろう。何千回はいっている。いや、1万回を越えているかもしれない。とにかく数え切れないくらいに聞かれ、常にまじめに答えた。 
 そして、一本の電話が鳴った。国土交通省の職員の方から。2年間ほったらかしですいませんでした・・・また立ち退きにあたっての交渉を再開したいと・・・。
 定休日、待ち合わせたメロポチに訪れた彼にまず最初に求められたのは、直近の税務書類の提出だった。ぶったまげた。2年前にすでに提出済みの書類をさらに出してほしいとは。道路の拡張工事に触れる建物の所有者、そしてテナントに入るものは2年前一斉にその書類の提出を求められた。そして、1軒、2軒と立ち退いてゆく。交渉の早い遅いの順番の理由も聞かされず、いつ立ち退きがはじまるのか2年間一切、何の説明もなかったのに・・・
 ありえない。血の通う人間の言葉か、それとも・・・
とにかく二晩くらい徹夜をしたような異様な疲れを感じた。それは、あまりに僕の常識とかけはなれた論理だったのだ。町ってなんなんだろう。つくづく考えた。やっぱり人と人のつながりが町の何より大切な要素ではないか。そのつながりを切り裂く一本の道。果たしてその道を造る事にどれだけの価値があるのか。アーケード架け替え工事とも相まって疲れはさらに増大する。宇宙の音の鳴り響くこの一年、僕は人生最高のピンチを迎える。しかし、「凪の街 桜の国」なる映画が僕にささやく。
 「あなたは世界一幸せ者よ。がんばって!!」つまらない常識比べはもうやめにして、リアルな明日を生きねばならない。
 ありがとう。今日まで出会ったすべての皆様。そしてまだ見ぬすべての皆様。おやすみ。