有と無

 西洋の文化は“有”そして東洋は“無”の文化、という話はよく聞く。数学という学問の発展に大きく寄与した偉大なる数字「0」もインドで生まれた。がむしゃらに走り続ける日常の中で考えることは、いったい僕たちは何処に向かって走っているのかということ。そして、忙しさと明日の不安のためにそんな問いかけそのものも発せなくなってしまいそうなけだるさに包まれ、Hellow という挨拶の息遣いの弱さに、行く当てのない旅への欲望に駆り立てられる。
 強い自殺願望を持つお客様を前に、まったくもって言葉が探せない。カウンターに立つには少々若すぎた。7年を手前に喫茶店のマスターとしてまったく仕事も果たせない自分と向き合うことは実につらい。けれど、彼の心の奥にはもっと深い穴が開いているのかと思うとさらにやりきれない。
 こんな夜は祈りしかない。
有も無もないのだ。