ハッとしてグー

 「あなたは死んでいる人?」そんなふうに尋ねられたことは、初めてだったような気がする。とっさに生きていることをアピールせねば、と思う反面、心の中では、ああ生きていても死んでいてもさほど大きな問題ではないなと感じる冷めた自分がいた。そして、かなり昔からずっとそこにいて、ずっと稲光を見つめていたような気がしてきた。人は誰も錯覚の壁に囲まれて生きている。その壁がふっと消える瞬間、永遠が訪れる。簡単そうで、難儀な壁。まるで夢のようなときも蚊に刺された後だけを残し通り過ぎる。
 「あなたは死んでいる人?」そう尋ねられた僕はそのとき死んでいたのかもしれない。