花束

 今夜、ひさしぶりにぽっかりと予定のない夜がやって来た。予定がないといっても、やらなければならないことは山ほどある。そのための夜でもあった。けれど、やはりそんな日はそんな日だ。とある女性のお客様が入院中という話を聞いた。2〜3年、店に来られることなく、いろいろな意味で気になっていた人だ。夕暮れ時、市場の花屋さんで花を買い、閉店と同時にお見舞いに行って来た。どんなかたちであれ、僕自身、彼女に花束を渡す日が来るとは夢にも思っていなかった。日々の暮らしは、僕に、僕たち人間は、本当に生身(なまみ)で生きている、ということを強く、強く認識させる。それでも、僕はノーストレスで、常に幸せとしか言いようがない。逆に、彼女の入院や、何かの話を聞くにつけ、僕の心の切なさも増大する。
 彼女は口数が少なく、実はこよなく花が好きな感じの女性だ。僕の突然の訪問に、驚いておられたが、ひとみがきらきらと輝いていた。
 大丈夫。きっと元気になる。心でそう強く念じ、病室を後にした。店に戻った僕は、先日のハセケンLIVEの録音をうかつにも消去してしまった。
 人も生身ならコンピューターのデータとやらも生身。傷つきやすく、移ろいやすい。果たして、明日。如何にデータを復活させることができるのか。
幸せ男の明日の仕事がまた一つ増えた。