空間を満たすもの

 それは音。あるいは静けさ。それとも涙。3月の半ばからアルバイトの巻達彦氏が長期休暇に入った。それ以降、基本的に昼間は僕一人で働いている。
 いろいろなことで出歩き、ばたばたしているうちに、いつの間にかメロメロポッチが僕からすり抜けていった。このままではいけない・・と思いつつ日々は風のように流れていった。
 何事にも「イエス。」と答える僕は、現実的に自分の許容範囲を超える物事を抱え込んでいた。すべて大切な何かであり、必要な何かであった。そう思って日々営んできた。けれど、ここにきて、ようやく雲が晴れてきた。
 雲間を広げたのは、紛れもない長谷川健一氏の歌声だった。メロメロポッチの9年間で僕が探し続けてきたものが、ここにあった。京都の地で淡々と歌い続ける彼の歌に込められた無限のイマジネーション。あるいは言葉に表せぬ揺らぎ。意識することのない無色の感情。彼の人生観も知らず、あるいはとことん酒を酌み交わしたこともない間柄でありながら、初めて彼の歌を聴いてから枯れることのない静かな情熱。空間を満たすもの。それは何か、あるいは心を満たすもの。それはなにか。足りないものだらけの人生に笑うせつなさ。ちょっとだけ大人になって整理する日曜の午後。リアルな優しさに触れる喜び。
 空間を満たすもの、心を満たすものに触れるとき、人生は少しだけ展開する。