鳥越の風

 ひょんなことから、先日、某鳥越のお宅の瓦を見るため屋根に上がった。周囲の家はどの家も大変立派で小奇麗だ。鳥の鳴き声と時折過ぎる車のエンジン音。静けさの中、この贅沢さに心震わせる。昼過ぎから、若干暑くなるもやはり、緑に覆われたここは鳥越。ちょっと下りてお茶を一杯いただけばそこは天国。
 何年ぶりに瓦をさわり、四九版という古いサイズの針金で留める、その留め方にしばらく四苦八苦する。しかし3年間やっていたことは、体のどこかが覚えている。「ああ、そういえば俺、昔、瓦職人として生きていたんだなあ。」と感慨深く思う。メロメロポッチというまるでギャンブルな店を素人がはじめることができたのも、だめならまたすぐ屋根に上ればいい。そう思っていたからだ。あれから、来月でとうとう9年の月日が経つ。
 メロメロポッチを始めるきっかけは、妻の実家の父が危篤になったことだった。専業梨農家の大黒柱の変わりに、一冬瓦屋が休みになることをよいことに、、すべての梨の木を僕が剪定した。義兄が梨園を継いでくれることが決まったものの、市場に出せない「へご梨」ばかりできたら、出荷できない。それなら、生ジュースだ!そんなノリで、この店が始まった。
 鳥越の風に吹かれながら、懐かしいあの日のことを思い出した。そして、今、また大きな風が近江町に吹いている。まったく予期せぬこの風に、果たして僕はどちらに流されていくのか。僕の受身人生は、まだまだ予断を許さない。けれど、・・・